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最高裁判所第三小法廷 昭和62年(オ)291号 判決 1992年12月15日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人松井隆雄の上告理由第一の一ないし三について

中小企業等協同組合法に基づいて設立された組合の組合員は、組合に対し、組合員たる資格において、組合の事業目的に供される施設等を利用する抽象的な権利を有するが、その具体的な利用関係は、原則として、相対立する当事者間における個人法的契約法理の適用をも受けるものと解するのが相当であり、右利用関係についての本件定款の定めが存することもこのように解することの妨げとなるものではない。これと同旨の見解に立つて、本件店舗利用の法律関係は賃貸借契約であるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第一の四について

中小企業等協同組合法が、同法一九条一項三号において、「除名」を脱退事由としたのは、これにより組合の秩序維持を図る趣旨に出たものであるところ、組合は、解散後においても清算の目的の範囲内においてなお存続し、秩序維持を図る必要性が存することは否定できないから、組合解散後も除名が脱退事由に当たると解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を非難するか、又は原判決の結論に影響のない説示部分を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第三について

中小企業等協同組合法に基づいて設立された組合の代表理事は、理事会の決議をもつて定めることを要し(同法四二条、商法二六一条)、総会の決議をもつて選任することはできないものと解すべきである。これと同旨の見解に立つて、巽雄一は所論の日に代表理事に有効に選任されたものではないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定しない事実に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂上寿夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)

【上告理由】

上告代理人松井隆雄の上告理由

第一 原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる中小企業等協同組合法(以下「法」という)の解釈を誤つた違背がある。

一 原判決は中小企業等協同組合(以下「組合」という)の組合員は組合員たる資格において組合に対し組合の目的となつている事業を利用する抽象的な権利を有するものであり、組合員が右権利を行使した結果具体的に形成される組合事業利用関係は、原則として第三者と組合との法律関係と同様相対立する当事者間における個人法的契約法理の適用を受けるものと解すべきであり、組合事業利用関係が組合員たる資格において取得したがゆえに、専ら組合員という団体法的法理のみの適用を受けると解すべきでないと判断したがそれは誤りである。

なるほど組合員が組合との契約の相手方となり第三者的法律関係に立つことはあるが、組合が共同施設利用等を通じて組合員の個別経済を助成する目的のために設立されたものであるならば、組合員の施設利用関係については組合員が組合に加入することによつて第三者的法律関係は組合関係に吸収されると考えるべきで、その限りにおいては団体法的法理のみの適用を受けると解すべきである。仮にそうでないならば、少なくとも一般の第三者的法律関係を修正した法律関係に立つと解しなければならない。組合員外の者と同列に扱うのでは組合に加入した意味がなくなるのである。

二 被上告人組合は訴外日成産業株式会社(以下訴外会社という)が破産宣告を受け倒産し、訴外会社の所有していた市場の建物及びその敷地が処分されることを避ける為設立されたものである。

その主な目的は、従来訴外会社から賃借していた店舗をそのまま継続使用して営業することにあつた。その為被上告人組合は訴外会社が所有していた市場の建物及び敷地を買取り、訴外会社の各賃借人であつた各店舗の経営者が全て組合員となつたのである。被上告人組合の第一の目的が各組合員の施設利用権にあつたのである。被上告人組合の組合員は訴外会社から引続き組合設立後も間断なく店舗を使用しており、組合設立の際被上告人組合と組合員との間で賃貸借契約を締結して初めて使用したのではない。組合設立後各店舗の使用料を定めるについて賃貸借契約書を作成したにすぎないのである。

被上告人組合のごとく特殊な経過で設立した組合において個人法的契約法理の適用を認めることはできず、原判決のこの点の判断は誤つているのである。

三 原判決が法一三条に「組合は、定款に定めるところにより、使用料及び手数料を徴収することができる。」と定められこれを受けて被上告人定款一五条一項に同趣旨の規定があり、同二二条に「本組合は組合員が使用料、手数料……債務を履行しないときは……日歩四銭の割合で延滞金を徴収することができる。」、同一三条に「……本組合に対する義務を怠つた組合員」を「除名することができる。」と各規定されていることも右解釈の妨げになるものでないと判断したのは誤りである。

本来組合は組合員に対し直接奉仕の原則のもとに事業を行なわなければならない関係上(法五条二号)、組合員には使用料又は手数料を徴収することができないところ法一三条は定款の定めるところによつて使用料及び手数料を徴収することができるよう明記したものである。

しかも使用料、手数料の額は直接奉仕の原則からそれぞれの事業を遂行するうえに必要な程度にとどめられるべきであつて、その額をいたずらに増徴したのでは共同事業の有利性が損なわれることになる。使用料及び手数料の支払いを怠つた組合員に対する制裁は法一二条の経費の支払いを怠つた場合と同じである。

組合員外の者が使用料及び手数料の支払いを怠つた場合とは異なることは明らかで組合員は団体法的法理の適用のほか契約法理の適用を受けるというのでは組合員以外の者の方が有利に扱われることになり不合理であるのみならず被上告人組合のように全組合員が共同施設を利用し(尤も施設を利用しないと組合加入の意味がない)その為全組合員が使用料及び手数料を支払う組合において全組合員が団体法的法理の適用と契約法理の適用をうけることを認める解釈をとることはできない。組合員に対する使用料、手数料の徴収及び支払いを怠つた組合員に対する制裁は法一三条及び被上告人定款一五条一項、二二条、一三条のみの適用を受けると解すべきである。

四 原判決は法定脱退の場合は脱退事由が発生したとき直ちに組合員たる地位を喪失するものであるから組合員が市場を「退店」したとき以後組合員たる権利利益を享受し得ないというべきである。

組合が解散したあとは法一九条一号を原因とする脱退の適用はないが同条三号の適用はあると解すべきであると判断したが、それは誤りである。

組合が解散決議をしても清算結了までの間、清算組合として存在するのである。その間組合員に生じた事由による組合員の資格の喪失や除名の適用は当然あると解すべきで、組合員の資格の喪失を原因とする脱退の適用はなく除名の適用はあると区別して解することはできない。

脱退組合員に対する払戻請求と組合が解散したときの組合員に対する残余財産分配とは明らかに異なる。清算組合にも法一九条一号の適用はあると解すべきであるところ原判決は法一九条の解釈を誤つた違背がある。

第三 原判決は法四二条の準用する商法二六一条の規定によれば、代表理事は理事会の決議によつて定めることを要し総会の決議をもつて選任することはできないと解すべきであるから主張自体失当てあると排斥するが法四二条の準用する商法二六一条の解釈を誤つた違背がある。

代表理事の選任は理事会の決議事項であるが総会の権限でも選任できると解すべきである。即ち総会は全組合員によつて構成される理事会の上級機関であり、代表理事が実質的にも法律上も協同組合の代表機関であつて理事会の代表機関ではないからである。

しかも実質上の組合が機能していなく、組合員資格に問題がある組合において、厳格な手続を要求しても実質上運営できないのである。被上告人組合において代表理事選任が定款の規定に基づきなされなかつた前例は川田を選任した際の選任方法にもある。川田は総会で指名に基づいて直接選任されたのである。

原判決はこの点について昭和五三年九月開催の総会は組合員一五名が参加し全員一致で川田を代表理事に指名したあと同人によつて出席組合員の中から理事が指名されてこれも全員一致で承認されたものであるとの事実を認定しているが全く証拠に基づかない認定である。総会において川田を代表理事に指名したあと、全員を理事にするという話もあつたが、それでは困るので後日川田が適当に選任するということで散会し、その場では選任されなかつたのである。

仮に原判決の事実認定どおりその場において川田が外の理事を指名しこれを全員が承認したとして川田の代表理事は総会の決議によつて選任された外観を有するものの、そこには理事全員が出席しており理事会としての要件にも欠けるところがなく何人もこれに異議はなかつたものである以上、右総会は理事会も同時に開催され総体的、実質的にみていずれも有効に成立したものと解し得るとしたのは明らかに法の趣旨を誤つた恣意的解釈で許されない。それならば端的に代表理事を総会の決議によつて選任できると解すべきである。そうでないならば、法四二条の準用する商法二六二条及び法三五条の趣旨を厳格に解すべきである。

法は総会において理事を選任し、選任された理事により構成される理事会の決議で代表理事を選任すべきことを要求している。

理事は組合員で構成する総会で選挙または、指名推薦によつて選任されなければならず代表理事によつて理事を指名することは許されないのである。理事の選任の後に代表理事を選任するという順序を逆にすることはできない。原判決はこれを無視して代表理事によつて選ばれた理事が全員出席しているから理事会の要件に欠けることがないというが、理事会に出席しうるのは理事のみである他の組合員が出席しうるものでない。大は小を兼ねるという論法は通用しないのである。

川田代表理事は総会の決議によつて選任されたのであつて外観のみならず実質が総会であつたのである。総会に理事全員が出席していたら同時に理事会としての要件が欠けるところがないというなら常に総会は理事会を兼ねていることになる。形式的手続を無視して、実質論で判断することは許されない。

それが許されるなら上告人巽が代表理事に選任されたときも総会であつてその場で上告人巽が出席者全員を理事に指名し、全組合員が理事になることを承認したのであるから理事会の要件に欠けることもないのである。右総会で出席した組合員は欠席した理事を全て解任し改めて理事として全員が理事となることを承認したのである。正に理事会としての要件を具備していたのであるから原判決の判断は誤りである。

(その他の上告理由は省略する。)

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